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4年振りの本格開催!『オーケストラの日2023』
 ̶特別編成オーケストラの強く明るい響きと、いっぱいの拍手と

文:山野 雄大(音楽評論家)  写真:藤本 史昭 
 4年振りの本格開催!『オーケストラの日2023』 ̶特別編成オーケストラの強く明るい響きと、いっぱいの拍手と   文:山野 雄大(音楽評論家)  写真:藤本 史昭  | オケ連ニュース | 公益社団法人 日本オーケストラ連盟

 4年ぶりの光景、直に体感する4年ぶりの再会̶̶『オーケストラの日2023』のコンサートが3月31日、東京文化会館で開催され、ホールを埋めた聴衆も一種独特な感慨を共有することになった。
 「ミミにいちばん」の語呂合わせで毎年3月31日を「オーケストラの日」とすることになったのは2007年から。日本オーケストラ連盟に加盟する全国のプロ・オーケストラが、この日を中心に初心者にも親しみやすいコンサートなどを一斉にあれこれ展開する‥‥という挑戦は、加盟楽団がそれぞれ独自に展開している同種の企画とも連動したり、はたまた新しい企画を生んだり、とかたちや模索は様々ながら、数々の成果を挙げつつ定着してきた。なかでも、首都圏の全プロ・オーケストラからメンバーが参加した特別編成のオーケストラ〈オーケストラの日祝祭管弦楽団〉による一日限りの公演は、多くの楽団が連携する他に例をみないコンサートとして毎年多くの聴衆を集めて人気を博してきた。
 なかでも、首都圏の全プロ・オーケストラからメンバーが参加した特別編成のオーケストラ〈オーケストラの日祝祭管弦楽団〉による一日限りの公演は、多くの楽団が連携する他に例をみないコンサートとして毎年多くの聴衆を集めて人気を博してきた。

コロナ禍を支えて下さった皆様へ

 しかし、2020年の同日も同じ東京文化会館で開催が予定されていた『オーケストラの日』公演は、コロナ禍で中止のやむなきに至る。続く危機にオーケストラ界も厳しい闘いを強いられることになったが、『オーケストラの日』の火を絶やすまいと努力は続いた。一昨年の2021年は全国のオーケストラ演奏映像をリレーするライブ配信、東京文化会館小ホールからの配信イベントと、状況を逆手に取った新しい挑戦がおこなわれた。昨2022年は東京文化会館から「オーケストラコンサートができるまで」をテーマとした生配信公演を開催、ライブラリアンやステージマネージャーなど楽団業務を支える裏方さんたちに密着しながら、オーケストラ公演そのものをより身近に感じてもらおうという(これも新しい)挑戦が発信されることになった。
 そして本年、コロナ禍はまだ全く衰えをみせないものの、配慮のうえ公演開催は可能となった現況を踏まえて、いよいよ本格開催となった。3月18日から上野の諸会場で展開されていた『東京・春音楽祭2023』にも入るかたちで開催された『オーケストラの日2023』、まず午後2時からは東京文化会館小ホールで、0歳から入場可能な休憩なし45分間の公演として『オーケストラ・メンバーによるミニ・コンサート』が開催。小ホールのロビーでは『レッツ・タッチ・ゲンガッキ!~弦楽器に触れてみよう!~』という体験コーナーも併せて開催された。

 そして隣の大ホールでは、開演を前にしてたいへんな賑わいをみせていた。ロビーをずらりと埋める各オーケストラの宣伝ブース、配られる公演チラシや年間パンフレットなどたくさん集めて手に取ってゆく観客の皆さん‥‥と、ブースに立つ楽団メンバーとの交流は祭りの屋台さながらだが、15時からスタートした〈オーケストラの日祝祭管弦楽団〉によるコンサートは、まさに祝祭感も明るく響く公演となった。篠崎史紀をコンサートマスターに、首都圏13楽団からメンバーが集まったオーケストラをキンボー・イシイが指揮。ドヴォルザークの序曲《謝肉祭》から、常ならぬ機会ながらさすが手練のメンバーたち、と力をみせる演奏を聴かせた。

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生で体感できる!

 山田美也子が柔らかく近しい語りで司会を務め、コロナ禍を乗り越えてきた全オーケストラの想い、そしてその危機を支えて下さったファンや企業各位への深い感謝を伝えつつ進行。ときに楽員を呼び寄せての短いインタビューを交えたりと、緩急絶妙な司会もあって飽かせない公演となったが、なにより〈この時間を生で体感する〉というコンサートの醍醐味を、多くの人が共有する‥‥という感覚こそ、待望されていたものでもあっただろう。2曲目のワーグナー《ジークフリート牧歌》、ベートーヴェンの交響曲第6番《田園》から第4楽章・第5楽章と、その選曲にこめられた意図̶̶作曲家たちが音楽に託した、苦難を越えて見る平和と喜びへの讃歌̶̶を、オーケストラも誠実丁寧に描き出した。最後はチャイコフスキーの交響曲第5番からフィナーレ、これも運命に抗する意志の力を思わせる曲想を、インパクトを彫り込みつつ前のめりなエネルギーをみせながら、アンサンブルを崩さず明晰な音楽へ昇華してゆく演奏で聴かせた。力を押しつけず、作品の力をそれぞれが味わうような音楽‥‥という印象を受けたのは、特別編成ならではのアンサンブルゆえか解釈ゆえか、その真っ直ぐたくましい明るさ、に客席も強い拍手で応えた。
 休憩なしの1時間強、演奏とお話のバランスも含めて良い充実感の残る公演だった。終演後、舞台上で挨拶を交わすメンバーたちの笑顔も4年ぶりに拝見するが、やはりこの企画は継続される大きな意義がある、と感じられた余韻でもあった。親子連れや若い学生さんたちからご高齢の夫婦、女性二人連れなど客層も広い印象もあり、平日・金曜日の午後から大ホールをほぼ埋めた盛況も、企画への期待を裏付けるものであっただろう。演奏も、ホールという空間全体の空気感も、他では味わえない特別な̶̶しかし温かい̶̶ものだったと思う。

全国各地では

 これは東京でおこなわれた首都圏楽団の参加による『オーケストラの日2023』公演だが、ほかにも全国で公演がおこなわれたので、こ
ちらも駆け足でご紹介しておこう。
 山形交響楽団は、阪哲朗の指揮で「オーケストラの日2023~やまぎん県民ホールシリーズVol.6~」を開催(3月26日、やまぎん県民ホール)。前橋汀子を迎えたメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲にオーケストラ編曲版のバッハ特集という凝ったプログラムに、ワークショップやミニコンサート、ホールの施設開放イベントも同日開催と豊かに展開。
 富士山静岡交響楽団は、藤岡幸夫の指揮で『オーケストラの日2023 名曲コンサート』を開催(3月25日、清水文化会館マリナート)、荘村清志のギター独奏でロドリーゴ《アランフェス協奏曲》やチャイコフスキーの交響曲第5番
などを披露した。
 オーケストラ・アンサンブル金沢は『オーケストラの日2023 OEKへようこそ』を開催(3月31日、石川県立音楽堂コンサートホール)。オーケストラと同じ音楽堂を本拠とするいしかわ子ども邦楽アンサンブルの演奏、OEKのトークや映像、ワーグナー《ジークフリート牧歌》ほかの演奏に続いて最後は(これも音楽堂を本拠に活動する)石川県ジュニアオーケストラとの合同で、ドヴォルザーク《新世界より》第4楽章が演奏された。
 広島交響楽団は、『オーケストラの日2023 広島交響楽団「ふるさとシンフォニー」in天応』と題して、地域関係者向けのコンサートを(3月23日、呉市立天応小中学校体育館)。下野達也の指揮でリムスキー=コルサコフ《スペイン奇想曲》ほか名曲に併せて校歌メドレーなど地元密着型の選曲で開催された。
 九州交響楽団は『みんなで楽しもう♪九響・春のこどもコンサート2023』を開催(3月25日、アクロス福岡シンフォニーホール/2回公演)。柴田真郁の指揮、西けいこの歌・司会で、フォークダンス・メドレーや人気の梶浦由記《鬼滅の刃》より《紅蓮華~炎》、ビゼー《カルメン》前奏曲では観客もボディパーカションで参加など、広い聴衆を意識して趣向を凝らした公演となった。
 ほか、多くの楽団が前後してさまざまな特別演奏会を開催。オーケストラをより広く親しんでもらおうという常日頃からの取り組みのなか、本格開催が再開された「オーケストラの日」の存在感や意義も実に心強い。関係各位の尽力にあらためて敬意を表したい。

2023年7月31日発行
「日本オーケストラ連盟ニュース vol.111 40 ORCHESTRAS」より