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海外の文化助成事情

文:沖汐明日香(セントラル愛知交響楽団)
 海外の文化助成事情   文:沖汐明日香(セントラル愛知交響楽団) | オケ連ニュース | 公益社団法人 日本オーケストラ連盟

アメリカ合衆国
Shuttered Venue Operators Grant(SVOG)

 今年 3 月11日、米国救済計画法に制定された助成制度で中小企業・非営利組織に特化している。連邦政府独立機関U.S.Small Business Administration が申請書類の審査を行っており、4 月26日より受付を開始した。
 総額 162 億 5 千万ドル(約 1 兆 8 千億円)の規模を持つ本制度の対象者は、国内の文化施設や文化芸術団体のほか芸能事務所も含まれる。2020 年 2 月29日時点での組織運営が認められる場合、一事業者に対する上限額は 2019 年度総収入の 45% 又は1 千万ドルのうちいずれか少額となる。6 月28日付で 2,390 事業者に総額 10 億 5 千万ドルが交付済みで、ちなみに Seattle Symphony Orchestra は 5,233,548ドルを受給した。
 SVOG の特徴は審査にある。審査は三段階に分かれ、2020 年 4 月〜 12 月の期間で収入減が 90% 以上(第一段階)、70% 以上(第二)、25% 以上(第三)あった事業者から順に行う。また、20 億ドルは従業員数50 名以下の事業者用に確保される。助成を最も必要としている事業者を優先している。

英国
Culture Recovery Fund (CRF)

 昨年 7 月5日、英国政府が発表した文化芸術・遺産保護の活動継続支援制度。対象は舞台芸術、美術、文学、映画、文化遺産など多岐に分かれる。予算額は総額 18億 7 千万ポンド(約 2880 億円)。6 月25日付で約 5 千の事業者に 12 億ポンドが交付済みである。
 オーケストラ団体の申請は政府外公共機関 Arts Council England が管理・審査する。一事業者に対する上限額は 2 万 5 千~3 百万ポンドで、既に二度の募集を終えている。申請方法として以下質問への回答が求められる:1)経営状態の現状、2)経営回復に向けた戦略、3)事業者の文化的役割、4)組織・聴衆の多様性を高める方法。我が国の助成制度は公演事業の企画内容が審査基準になることが多いが、CRF の場合は組織の将来性が審査基準となる。ちなみに London Symphony Orchestra は 二 度の申請で 126 万 9 千ポンドを受給した。

 各国の助成制度の特徴は、公平な審査方法と雇用維持を最優先とする内容である。コロナ禍で弱い立場にある文化芸術団体が生き抜くにはこのような仕組み作りも大切なのではないだろうか。

「日本オーケストラ連盟ニュース vol.105 38 ORCHESTRAS」より